秋田県からの川便り

川と町づくり
  雄物川流域のくらしと自然を考える会 代表  
           富田 弘二 (二種正会員)
          

 雄物川は、秋田県の南部を流れ日本海に注ぐ、延長133kmの県内第一の河川であります。
 私どもの雄物川町は、この川の上流部にあり、人口1万1千余の農業の町です。私はここの町長を4期16年勤め、3年前に退任いたしました。就任当初、個性的な町づくり、町民総参加の町づくりを進めるためには何が必要かと、役場の若いスタッフと真剣に議論した結果、町民の一人ひとりが自分の町に誇りを持つことが大事で、そのためには郷土の歴史や文化・風土を学ぶところから始めるべきだとして、郷土学習に取り組みました。そうしたら町のなりたちと歩みのすべてが雄物川に行きつくのであります。
 旧石器時代から縄文・弥生・古墳時代と、我々の遠い先祖の生活の営みをものがたる遺跡や埋蔵文化財も川の結びつきがあり、史上名高い後三年の役の合戦場となった沼の柵も、この川の水を守りにした要害であったとあります。中世・近世・現代まで大きな出来事はすべて川のまつわるものが多く、住民の生命を支えてきた稲作もこの川が育んできたものであり、これは現在も全國有数の米どころとしての地位を占めております。その外、宗教、信仰、祭礼、習俗、習慣、文芸、芸能、伝説、民話等の有形無形の文化財のほとんどが、川が運んできたものであり、山紫水明の景観や四季折々の味覚も川から享受してきました。
 勿論、川からは洪水や氾濫など水害の脅威も受けてきましたが、むしろその脅威もバネとなって、流域に住む人々の物の考え方や暮しのしかた、そして積極的で行動的な川筋気質ともいうべき住民性も川から教わってたものであります。
よって、私はわが町を“河川文化のふるさと”と位置づけ、川に感謝し“川にこだわる町づくり”を提唱し、町民に理解と協力を求めてまいりました。
 ただ残念なのは川の現状です。私どもが子供の頃の、水泳ぎや魚とりに興じた当時の川ではありません。川は危険なところ、汚物を捨てるところとなってしまい、人は川からどんどん離れてしまいました。そこでまず人々を川に近づけ、川に対する認識を新たにしてもらおうということで「河川公園」の造成に着手しました。幸い建設省の指導と応援を得て、河川敷20haに散策路やせせらぎ水路、ディキャンプ場、芝生と花壇、遊具等を配置し、町民の憩いと川を学習する場にしました。今では町の内外から大ぜいの利用者で連日一ぱいであります。
 つづいて「河川愛護の会」をつくり、川沿いの住民の多数を会員とし、川のクリーンアップやゴミの不法投棄のパトロールもおこなっております。夏休みには中、高校生の「夏川の集い」を開き、河川公園でキャンプを楽しみながら、川を学ぶ機会にしております。
 このようにして川を大事にし、川を通して自然を大事にする町民性の醸成を図ろうと、町を挙げて推進しているところであります。
 ことしは例年になく早い冬の到来です。すでに白鳥や鴨が飛来しており、ことしの冬も水鳥たちで賑わうことでしょう。これからも、川と人とが共生し、共存共栄する社会の実現を念じながら、川を見つめてゆきたいと思います。